田中一村

『田中一村作品集』NHK出版。
天神橋筋商店街の古書店・天牛書店で、田中一村の画集をげっとん☆
田中一村は関東の人だけど、後半生を奄美大島で過ごし、奄美の自然を鮮やかにキャンバスに写しとった画家です。画壇との接触を断ち、係累をすべて振り捨てて自らの画業にのみ没入し、金銭的には不遇を囲い、1979年、異郷の地で孤独のうちに69歳の生涯を閉じ、没後、その仕事が評価された画家です。
奄美のゴーギャンと分かりやすいレッテルが貼られているのだけれども、そんなもんじゃなくて、鋭い観察と画力で力強くも繊細な花鳥画を描いた画家で、僕はむしろ、熱帯の伊藤若冲と言いたくなる。
風景や対象と一定の距離をとり、爛れた関係に陥らないような態度で絵を描いているように見えるものの、奄美特有の湿り気や日差しの強さをしっかりとキャンバス(絹本)に閉じ込めているのが感じられて、その距離感が、僕はとても好きだ。なんというか、対象を強く愛しながらも、情念に流されない強さが感じられる。

天牛書店というのは不思議な古書店で、絶妙のタイミングで、僕の頭の片隅に引っかかっているものと出会うことが多い。それを探しにいったわけではなく、ほぼすべて、偶然の不意打ちで出会う。

梅田界わいの歴史に興味の目が向いているとき、高価な宮本又次の『キタ』が半額となって、僕の前に現れる。
妖怪に夢中になっているとき、湯本豪一の『妖怪絵草子』シリーズに出会う。
和束の茶畑を見に行ったあとの興奮冷めやらなぬなか、写真集『茶原郷』がポンと置かれている。
伊勢大神楽を教えてもらって、ちょっと興味を持ったら、途端に、写真集『伊勢大神楽』を本棚に見つける。

そういうことが頻繁にあり、googleのパーソナライズド広告のように、きっと僕の興味の向き先の履歴がキャッシュとなって天牛書店に保存されているような気になってくる。
もともとそこにあったけれども興味がないうちは目に入らなかった、という類ではないような気がする。

今回もそう。
春から計画立てていた奄美大島旅行が、緊急事態宣言の延長やら解除やらまんぼうやらで振り回された挙句、とりあえずキャンセルしたけど、もっかい決行トライするかどうかとか、そーゆー状況下で、少々高価な田中一村の画集が1000円で天牛書店の本棚に立てられているのである。どうしたことかと思う。
やっぱ、行け!ということかなと思いながら、美しさにため息をつきながら画集のページをめくっている。

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