『東京人』谷口ジロー特集

今月の『東京人』は、なんと「谷口ジロー」を特集している。それも100ページの大特集。
これができてしまうのが東京市場のすごいところだし、『東京人』のすごいところだけど、なんかズルいな(笑)つか、単純にうらやましい。
夢枕獏、関川夏央、久住昌之といった谷口ジロー界隈ではおなじみの人たちが語り、片岡義男まで目くばせしているのはさすがとしか言いようがない。戦前の東京を語らせたら、片岡義男はピカイチだし、谷口ジローはもちろんそこに通じている。
手塚治虫や大友克洋には追従者がたくさんいる。それはそれで大きな山だ。
しかし、谷口ジローの前には誰もいないし、後に続く人もおらず、無辺彼方の荒野に屹立した孤高の独立峰と言うほかない。谷口ジローだけがいる。
なんちゅーか、人物も風景もなにもかもを、普通のものを普通に描くことのできる作家だった。
その凄みたるや。
『「坊っちゃん」の時代』以降、夏目漱石や石川啄木のビジュアルイメージは、この作品に出てくる彼ら以外には、僕はイメージすることができなくなった。
『神々の山嶺』のチョモランマ、K2の山肌の険しいことよ。
『犬を飼う』のタムが衰弱していくさまは、信じられないほどリアルに死に向かっていく時間が描かれている。衰弱の段階ごとに、犬の筋肉をこれほど精緻に描き分けることのできる作家がどれほどいるのだろうか。
『歩くひと』のなかの田園風景で流れる時間は、なぜかくもゆっくりなのか。
大阪で仮に『ナニワ金融道』の青木雄二で特集を組んだとして、このボリュームでできるだろうか。
いずれにしても、すごい特集。買いです。

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