梅田の地下街を舞台にしたサバイバルSF小説「梅田地下オデッセイ」!

大阪ラビリンス

昨年の秋口に、有栖川有栖が編んだ「大阪ラビリンス」というアンソロジーが出ました。
ミステリ、SF、純文学など、ジャンルを超え、大阪を舞台とした傑作小説11編を、彼がセレクトした本です。

織田作之助や小松左京、田辺聖子、柴崎友香など、期待を裏切らないセレクトがなされている本だけど、そのなかに、堀晃の名前がありました。

この人、僕は、寡作な作家であるということだけ知っていて、作品を読んだこともなければ、大阪にゆかりがあることも知りませんでした。

その、堀晃の作品「梅田地下オデッセイ」が収録されています。
もう、タイトルだけでおもしろそうです。

この作品は、「SFマガジン」1978年5月号に掲載され、その後、1981年2月、短編集「梅田地下オデッセイ」に収録されたのだそうです。その後、絶版になり、長らく入手困難だったのだとか。

いやー、SF方面は暗いので、これは知りませんでした。
が、読み進めると、奇天烈なプロットをもとに、破天荒な物語が繰り広げられるのですよ。

あまり詳しくなるとネタバレになるので、少しだけ触れます。

舞台は、この時代、つまり、1978年当時の梅田の地下街です。
あの、地元民ですら迷ってしまう、世界一の地下ダンジョンが舞台なのです。

梅田地下街は、地下鉄梅田駅を中心に、国鉄大阪駅との連絡通路、阪神・阪急の両百貨店の出入口、曽根崎警察署までの地下道と拡がりはじめた。梅田地下センターに商店街と食堂街が出現し、北は梅田コマ劇場、東は富国生命ビル、南は八番街まで拡大された。地下鉄四ツ橋線が開通して西梅田駅が出来ると同時に、地下街は急速に西南に進み、堂島地下センターが南へ一直線にのびた。高度成長期に入り、地下街は更に巨大化した。阪急梅田ターミナルが国鉄ガードの北側に移転するのに伴って、ターミナルの地下には川のある地下都市・阪急三番街が一挙に出現し、地下鉄梅田駅と連絡されたが、後年、東側にプチ・シャンゼリゼが作られて、梅田地下センターともつながった。梅田地下センターは東へも伸び、東端地下には噴水のある<泉の広場>が作られた。地下鉄谷町線が乗り入れられて東梅田駅が出現し、地下街は南へ伸びた。大阪駅前の再開発が始まり、桜橋から梅田新道の方向へ、巨大な三つの近代ビルの建造が開始された。大阪駅前第一ビル、第二ビル、第三ビル だ。…。

半分ほど書き写してみましたが、クラクラしてきました(笑)
梅田を根城にしている僕のような人間にはわかるだろうけれども、梅田の地下を知らない人がこれを読んだら、どんなもんがイメージできるんだろうか?
とても、偏執狂的です。でも、作者の堀さんが偏執狂的なのか、こんな地下街を増殖させ続けている大阪の人間が偏執狂的なのか。。。
これで半分で、しかも、これは1978年当時のものなので、まだディアモールもイーマも堂島アバンザもヒルトンプラザもナビオ地下も、もちろんグランフロントもないわけです。

ちなみに当時の地下街のmapを堀晃氏が自身のHPに載せています。
(画像引用元:http://www.jali.or.jp/hr/ume/ume_map-j.html

ume_map

というような舞台装置が用意されてですね、ある日、この地下街が一斉に閉鎖され、その場に閉じ込められた主人公を含む人々が、生存のための闘いをはじめるわけです。閉鎖は数ヶ月に及んだため、奪い合いの闘争から自主的な自治まで、さまざまなことが起こります。

もうね、なんちゅーかリアル陣取りゲームですよ。

暴動は食料の欠乏から始まった。正確には飢餓への危機感が引き金になったと言える。地下街に残された食料が尽きる以前に事件は起こりつつあった。
阪神デパートの地下には、堂島地下センター、駅前ビル方面から移動してきた者が集まり、阪急デパート地下には、三番街から南下してきた者が居ついた。食品売場の大きいこの二箇所に比べると、富国生命ビルの名店街に残された食品は豊富とはいえなかった。この売場に集まってグループは、デパート地下売場を管理するグループに、食品の公平な配分を要求したのだが、すでに長期の地下幽閉は誰もが予想しはじめていたため、エゴイズムが優先した。外部からの要求が集団としての結束を固めることになった。

またまた引用で申し訳ないが、全編、こんなかんじです。
どこかの遠い異国で起こった出来事ではなく、多くの大阪人が毎日のように歩いている、あの地下街が具体的な地名として登場し、しかもその筆致は詳細精緻を極め、とてつもなく偏執狂的なのです。

手に汗握り、ゲラゲラ笑いながら、一気に読み終えました。
今日も梅田の地下街を歩くあなたも、ぜひ☆
めっちゃおもろいです。

ほんまにねー、こんなにすごい作家、すごい作品が、大阪にゆかりのあるところにいるのだと、まったく知りませんでした。

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