「やいま」

やいま

沖縄は、日本でも有数の出版文化が盛んな土地だ。
人口130万人の土地に約40社もの出版社がひしめき合い、年間で約300点の本が出版されている。人口を鑑みると、こんなにも濃密な出版文化を持つ場所は、日本中どこを探してもない。
本屋さんを覗くと、大きな沖縄図書のコーナーを設けているところがほとんどだ。
「ボーダーインク」のような、全国的に評価の高い出版社も、いくつかある。
沖縄2大新聞である沖縄タイムスも琉球新報もそれぞれ出版部を持っているだけでなく、ライバル社の本の広告が掲載されることもある。こういうことは、沖縄以外ではないような気がする。
沖縄の歴史に目を遣るとすぐにわかることだけれども、きっと、アイデンティティを探りたい意識が高いのだろうということは、容易に想像がつく。
ただ、その内実を腑分けしていくと、意外なことが見えてくる。
年間で出版される約300点の本のうち、半分以上は、7、8社の「大手」と呼ばれる出版社から出されていて、残りの半分を、30社強の零細出版社から出されている。その30社も、多くて年間4、5点、少ないところでは年間に1点しか本を出さないところもある。
これは、出版で食えていない版元が8割を占めている、ということだ。
趣味でやっている人、印刷所の延長でつくらざるを得なかったもの、郷土史グループのボランティア、内職博打のつもりで出した一発勝負モノ、本業のかたわら遊びや副業的に出したもの……、こうしたものが圧倒的に多いようなのである。
もちろん、郷土出版物の点数の多さは、内地に比べるまでもなく圧倒的だ。食えてないなかでのこの状況は、やはり、郷土を愛する強い気持ちの表れであり、本にたいする文化的な畏敬が生きている証拠だと見るべきだと思う。内地のように画一化されない独自の文化が、いまだ暮らしのなかに息づいているのが沖縄なのだと、僕は思う。
むかしから、地方出版は中央の画一的な文化支配から逃れた地域にこそ花が咲く、と言われてきた。要するに、大都市から遠く離れ、交通の便が悪く、新幹線の通らないところに「独自の地方文化」が残り、それを栄養素に地方出版が花咲く、という図式だ。
そのもっとも顕著な例が、沖縄である。
今回、石垣にやって来て、もちろん、本屋さんを巡り、出版者を探した。
3軒しかまわれなかったけれども、どの本屋さんにも、沖縄の出版物を並べたコーナーが、それなりのスペースで用意されていた。
ここまでは、いい。
ところが、意外なことに、石垣を含む八重山諸島全域で、出版社は、なんと1社しかないことがわかった。
もちろん、人口が200人や300人しかいない小浜島や竹富島に出版社があるとは常識的に考えてあり得ないけれども、それでも、沖縄なら、と、恋にも似た僕の感情は、モノの見事に打ち砕かれたのである。
その、八重山地方で唯一の出版社は、むろん、石垣島にある。「南山舎」。そこが出している月刊誌「やいま」を、買った。
「一家に一冊 純八重山産生活情報誌」とある。
どことなく「大阪人」に似ていて、硬軟の文化を深く掘り下げている。生活に密着した、ほのぼのとしたページもたくさんある。
おそらく賛助会員をたくさん募っているのだろう、名刺広告の類いがたくさん掲載されていて、しかも、埋まりきらずに妙に不自然な白場がそのままになっていて、ツッコミどころもたくさんある、楽しい雑誌だ。
出版社のポータルサイトもある。http://jaima.net/
すごいな!と思った点もあった。
なんとこの雑誌は、取材対象エリアが、八重山全域なのである。つまり、石垣島のみならず、竹富島、小浜島、黒島、新城島、西表島、波照間島、与那国島をカバーしているのだ。波照間島も、与那国島も、一日に何便も船が出るような島ではないし、欠航もよくある。これだけのエリアをカバーしている地域誌は、ちょっと見たことがない。それだけでも頭が下がるし、正座して拝読したくなる。
石垣に出版社は1社しかなかったけれども、この、「やいま」を見つけたことだけお釣りが来るほどの収穫だった。

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