工房アルテの福島有佳子さん

工房アルテ

工房アルテの福島有佳子さんが、人工義指での暴力団離脱支援が評価され「第6回地域安全厚労賞」を受賞されました。
http://www.value-press.com/pressrelease/116019
北区の宝もんみたいな人です。
今回の受賞を記念して、今日のエントリーは、彼女の紹介を。

工房アルテは、天満宮のすぐ南側にあります。
人体模型のような、精巧にできた人工の身体のパーツを飾ったお店。知らない人が見たら、ギョッとするような光景。きっと、ガラス越しに店内を覗いた人もいるかと。
工房アルテは、事故や病気等で失った身体の一部を人体用シリコンでリアルに再現する「人工ボディ」を製作するところです。
交通事故や病気などで身体の一部を失った人のために、ハリウッドも真っ青の特殊メイク・レベルの人工ボディを完全オーダーメイドでつくります。カウンセリングから製作、メンテまで、すべて自己完結させてしまいます。
指を例にとると、皮膚の色(指だけで数十ヶ所、色を使い分けます)はもちろんのこと、血管の浮き具合、関節のしわ、爪の切り方、爪の根元にある白いところ(←なんて言うんだっけ?)…、もう、なにからなにまでリアルです。しかもこれ、使う人にあわせてつくるんで、パーツ単体を持ち出してリアルだどうだということではないんです。
このジャンルに関しては、福島さんこそが前人未到の第一人者ですが、そこで留まっていないのが、福島さんのすごいところです。
福島さんとは折に触れてご一緒する機会があるのですが、彼女のバイタリティはすごいですよ。とめどない、汲めども尽きない泉のような人です。
たとえば、義手や義指にマニキュアを塗りたいと、お客さんが言ったとする。通常、人工ボディなんだから、そこまで言わないで、それはわがままってもんでしょ!となります。
五体満足の人は、マニキュア塗りたけりゃ塗るわけで、誰もそれをわがままとは言わない。でも、人工ボディだと、わがままになっちゃう。
福島さんは、そこを見逃さない。普通の人が普通にできることは、人工ボディを使う人もできるようになるのが自分の仕事、と捉えます。
そっから、マニキュアを塗った人工ボディの開発に取り組みます。今だと、ジェルネイル。人工ボディはシリコンでできてるんで、ジェルネイルを施しても、ツルンと滑っちゃって、できないんですよね。でも、試行錯誤して、できるようにした。
この、どこまでも技術を追求し続けるハンパない情熱もさることながら、彼女が重きを置いているのは、ヒアリングです。とにかく、ユーザーの立場に徹底的に寄り添う。そこの情熱がすごいんです。
たとえば、右の小指がなくなってしまった人は、常に、右端に座るようになります。心にバリアがあるんですね。
一方、たとえば、生まれながらにして指が2本しかない人は、服を着たりボタンを留めたりすることができるかどうか?
できます。2本の指を自在に操って、服を着たり脱いだり、ボタンを留めたり外したり、編みものだってできる。2本で足りなければ、足の指だって使うし、それでも足りなければ、口を使う。
つまり、キチンと機能している以上、これは欠損ではないんですね。単純に、先天的に指が2本だ、ということだけです。
その人は、それで通常の生活を送ることができているし、心にバリアがない。
ただ、先天的なものの場合、その人を生んだおかあさんが、自責の念に駆られ続ける。
そういうところにまで目配せしながら、ヒアリングをし、カウンセリングを続けていくのが、福島さんのスタイルです。
生まれながらにして指が2本で、それが機能しているとき、その人に、残り3本の人工指を用意することは、しないそうです。
その3本をつけてしまうと、今度は逆に、機能を失ってしまう。2本指だったときにできていたことが、5本指になったせいで、できなくなってしまう。僕らの指が突然6本だったり7本だったりになったときのことを想像すると、なんとなくわかるかもしれません。こんなこと、徹底的に相手に向き合ってないと、気づかないと思いますね。
彼女がやろうとしていることは、人工ボディを製作することで、心のバリアフリーを目指すことです。
人は、身体の機能の一部をなくしてしまったことで、身体の一部を欠損してしまったことで、心にコンプレックスを抱くようになる。その、心のバリアをなくして初めて、人工ボディも意味を持ってくる、と、彼女は考えます。
たとえば、片腕がない小さな女の子でも、家族の理解とサポートを受けて、のびのびと暮らしている例はあります。
小さいお子らのあいだのことやし、悪気がなくても、なんで手がないねん?って言うてくるお子は、なんぼでもいます。
そんとき、その女の子は、家にあるわ!って言い返すんだとか。
こういう切り返しができる女の子には、バリアはないですね。こういう事例を聞いていると、感動すら覚えます。
結局のところ、障害の大きさが問題になるのではなくて、障害をどのように感じるのかが問題になってくるのだということが、この事例を見るとわかります。そしてそれは、本人だけの問題ではなくて、周囲まで含んでくる問題です。
向き合っていないとわからないこと、想像の及ばないことは、まだまだなんぼでもあります。
福島さんが汲もうとしているのは、そこです。

まだある。
福島さんがつくる人工ボディは、義肢とは少し違います。
義肢には、機能が備わってます。しかし人工ボディには、機能はない。手や足にしたところで、動くわけではない。
たとえば、交通事故などで顔の一部、たとえば片目を失ってしまった場合。
片目だとしたら、不完全ながらも残った片目で機能は果たせます。が、しかし、現実問題として、顔の一部を欠損してしまうと、仕事がなくなります。
たとえば、顔の一部を欠損している人を雇うところは、現実問題として、なかなかありません。
現実に仕事がなく、生活ができない。しかし、そういう人をフォローする保険なりの法整備は、なされていない。人工ボディはオーダーメイドなので、保険の対象から外れてしまうのだそうです。しかし、オーダーメイドでないプロパーの顔って、なに?
福島さんは、そんな現状をなんとかしたくて、法改正にまで手を染められています。
なにからなにまで、その行動力は、桁外れです。

今回受賞された、「第6回地域安全厚労賞」は、彼女が、長年、暴力団を抜けて更生しようとしている人をサポートする仕事を長年にわたって続けてきたことが評価されての受賞です。
暴力団を抜けるのに、小指を落とした人。その人たちは、更生しようにも、自刃した小指のせいで、なかなか仕事に就けません。そのために、再び暴力団に舞い戻ってしまう人も、あとを絶ちません。
彼女は、そんな人たちのために、保険のきかない小指の人工ボディを、格安で製作します。
その発端は、こうです。
むかし、違う場所に店を構えていたとき、近くに暴力団事務所があったそうです。
そのころ、暴対法が施行されて、暴力団を廃業した人がたくさんいた。しかし、彼らの多くは、小指がありません。小指がなけりゃ、仕事にもあぶれます。
そこで、彼らが福島さんのところにやってくる。そういう境遇の人たちだから、実費だけで人工ボディの小指のオーダーを請け負う。でも、そういう人たちだから、支払いを踏み倒す人もいてるわけです。でも、めげずに、取り立てに行く。精一杯のことをやっている自負があるから、怖いもの知らずでギャンギャン文句を言いながら、支払ってもらいにいく。
元暴力団が駆け込んでくるわけだから、警察にも目を付けられます。あんたんところはなにをやってるんや?と。指つけてるだけやん!
そのうち、第三セクター方式で、彼らの就職の斡旋施設までつくるようになります。
思い立って、警察のマル暴に出向いていって、指つくってる、就職斡旋もしてる、そちらも協力してくれ、と、掛け合いにいく。
もうね、思い立ったら即行動の、桁外れの行動力ですわ。
そんな人が、福島さん。

福島さんは、独学で技術を磨き、お客さんを先生として技術を磨き、お客さんの声を聞くことで技術を磨き、お客さんの声を聞くことに心血を注ぎ、わがままをわがままとせず、お客さんに寄り添い、心にポッと灯った思いを、桁外れの行動力でもって、走っていきます。
お客さん、患者さんについてきてもらうために、技術を磨いた。
どうなってもいいように、技術を磨いた。技術は、嘘をつかないから。
彼女は、いつもそんなふうに言います。
福島さん、おめでとう!

 

工房アルテ

工房アルテ

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大阪市北区天神橋1-18-18
http://www.kawamura-gishi.co.jp/

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