『新・大阪学』

『新・大阪学』

万博の開催に合わせて、書店ではたくさんの「大阪本」が並んでいるし、これからも並ぶのだろうが、なかでも、民俗学者・畑中章宏が書いた『新・大阪学』がおもしろい。
畑中さんは、大阪を8つのキーワードを軸に再編している。

ワシはつひまぶで、毎号、大阪キタを「編集」しているわけだが、大阪キタという手垢のついたものを編集して見せる醍醐味は、「再編集」にある。大阪キタも違った視点で見ると違う姿が見えてきますよと、視点を変えるわけだ。
切り口を変える、括りかたを変える、集めるものを変える、マッピングする基準を変える。そうすることで、既存のものに新しい姿や新しいアイデンティティーやパーステクティブ、新しい物語を見つけることができる。
雑誌をつくっていて楽しいのは、そういうことができた瞬間だ。

この『新・大阪学』も、大阪の再編集に挑んでいるし、だからこそ、「新」を名乗っている。(「シン」じゃないのも、いい)
で、その再編で見える姿が、おもしろい。いい。

8つのキーワードはこうだ。
「美食」
「デザイン」
「女性」
「リベラルアーツ」
「非主流」
「ハイブリッド」
「越境」
「多国籍」
ここにはタコ焼きも吉本も、コテコテもお笑いも出てこない。なんなら天満も船場も出てこない。
これらのキーワードを見るだけで、こうしてキーボードを叩いて入力するだけで、ワクワクする。

「美食」で語られるのは、北前船がもたらした昆布を入り口にした、北前船に代表されるネットワーク、遡って海民、住吉さんのことだ。
ネットワークが語られるのである。
そうすれば、三十石船や蔵屋敷のことを「美食」枠で紹介することもできる。
そして地産地消としての大阪の食文化。なにわ=魚庭、菜庭と語源の話をしつつ、淀川の川の幸と伝統野菜に触れつつ、土井勝・善晴親子、そして辻静雄の功績に触れる。
さらに、サントリーと広告、アサヒビールと吹田、ワインと南河内、梅酢と羽曳野、堺と酢…。

「デザイン」では村野藤吾が語られるのは当然として、その次に来るのは、葛井寺の千手観音に代表される国宝、そして富田林の寺内町。この並びもおもしろいが、〆で紹介されたのは、大阪の4つの塔。梅田の給気塔、太陽の塔、PL塔、そしてフンデルトヴァッサーのゴミ焼却施設の塔。この並びがワシの好みやし、これこそ再編集やね。

「女性」で1章が設けられているのも、いい。与謝野晶子と山崎豊子を並べて、商家で過ごした2人の生活者目線の持ち主として括る。与謝野晶子を平塚らいてうらの文脈で語らずに、山崎豊子と並べた文脈で語るのが、とってもいい。これも再編集。
同様に、経営者目線から、大同生命の広岡浅子、コシノ3姉妹、アメリカ村の日限萬里子。
女性性かつ大阪性の系譜につならる作家として、田辺聖子、富岡多惠子、そしてこの系譜の先端に川上未映子!
この再編は、ちょっと脱帽!

「非主流」というキーワードで再編する試みも素晴らしい。
東京中心主義への反発とかではなく、社会が正統と認めるものに対して距離を置き、疑問を呈する、オルタナティブな態度を紹介している。
反体制としての大塩平八郎。反リアリズムとしての上田秋成、反標準語としての織田作之助、町田康。
大阪文学の現在地も紹介されている。児童文学の庄野潤三、柴崎友香。柴崎友香をここに持ってくるのか!

全編、こんなかんじ。
雑誌屋が一番大好きな「再編集」を民俗学者にガッツリやられてしまっているのが悔しくてしょうがないのだけれども、同時に、やっぱ再編はおもろいわ!と再確認した一冊。

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