古くから栄えた日野町にはお寺さんがかなりの密度で点在しており、散策中に何気に目についた信楽院(しんぎょういん)を訪れた。表門の贅を凝らした装飾が素晴らしくて、ふらふらと吸い寄せられるようにして、参拝したのだった。
まずもって、木鼻に目が行く。
寺社の門や本堂の柱を貫通する頭貫や肘木の柱から突き出た部分は木鼻(きばな)と呼ばれ、雲や象のかたちに彫られていて遊び心を感じるものが多い。信楽院のそれには、象が彫られ、目には玉が入れられていた。陶器か貴石か。いずれにしても、そういう設えはなかなか見ることがないし、それだけ贅を凝らしたということなのだろう。表門は円柱の柱から組物まで精緻な彫刻で埋め尽くされており、戸に施された孔雀の透かし彫りも見事だ。
調べてみると、信楽院は、中世にこの地方を統治していた蒲生氏の菩提寺。蒲生氏といえば、戦国の名武将として名高い蒲生氏郷を輩出した氏族で、日野町挙げて大河ドラマに推している英雄中の英雄である。ただ、蒲生氏の菩提寺だと知らなくとも、このお寺さんの門をくぐって本堂の戸を開けると、ただものではないことが一瞬にしてわかる。
本堂の天井に躍動するのは、巨大な龍。雲龍を中心に縦横11mの見事な水墨画が、天井いっぱいに描かれている。雲龍のみならず、八大龍王、韋駄天、蓮華、飛天などがダイナミックに描かれているのだ。しばし頭上を見上げ、口をあんぐりと開けたまま見惚れてしまった。勉強不足で知らなかったが、この天井画は日野町出身の著名な画家・高田敬輔の筆によるもので、高田敬輔は狩野山楽にも比肩すると言われた絵師なのだか。そうと知らずとも、すごい龍だということは一瞥すればわかるほどで、失礼ながら、京や大阪から遠く離れた日野の地で、ふらっと立ち寄ったお寺さんにこんなにもすごいものが何気にゴロンと寝転がっているとは想像だにしておらず、嬉しい不意打ちを食らったのだった。日野、やはりおそるべし。
日野の人々の信仰が篤く、それゆえに贅を注いだのだということが、ひとつふたつ寺院を訪れるだけで見てとれてしまう。そう考えると、日野はやっぱりすごいところだ。
後に手に入れた、町が発行する日野の歴史を紹介する冊子(オールカラーA4版160ページのとても気合の入った豪華本!)によると、金剛定寺や正明寺など、まだまだ由緒あるお寺さんがたくさんある。少しずつでもいいから、全部まわりたい気に、すでになっている。
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