日野の勧請縄

今回の日野遠征ではひなまつりを見る以外にも目的がいくつもあって、そのうちのひとつが勧請縄を見てまわること。
勧請縄(かんじょうなわ)とは、注連縄に似ているけれども、注連縄とは別の民俗行事で、村や集落に悪霊や疫病が入ってこないように村や集落の出入り口に設けられた一種の結界だ。
集落ごとにデザインが違っていて、みんな個性的で、おもしろい。かたちのおもしろさやその習俗の不思議さに魅せられて、見れるチャンスがあれば見たいなあと、常々思っていたのですよ。最初に近江で勧請縄を見たとき、いろいろと調べて、日本で唯一の勧請縄の写真集『勧請縄』を手に入れて、しょっちゅう眺めてたな。
でも、勧請縄は湖東に多く見られるもので、大阪や京都にはないし、見たければ日野や東近江まで行くしかなく、だから、今回のように日野に行く機会があったときには、もうね、ぜひ見たい!となる。
今回、ここでもすべてをアテンドしてくれた西河さんに活躍していただいて、綿向神社、西明寺、熊野神社の勧請縄を見ることができたのでした。あぁなんという僥倖!
最初の3枚の写真は、綿向神社の入口に吊るされた勧請縄。
綿向神社のトリクグラズ(中心に飾られるのシンボル的なもの)は月日を表し、「下がり」の小縄には先端にサカキの小枝が結ばれていて、縄の上には12本の御幣が立てられ、両側の石垣の脇には同じ御幣が6本ずつ一列に並べられている。
綿向神社では5月に日野祭という大きな祭りがあり、そのときはこの勧請縄が外される。というのも、巨大な曳山が通るお祭りなので、勧請縄があると曳山が通れないのだとか。
勧請縄は、もともとは自然信仰によるもの(だったはず)が、修験道や神道、仏教、道教、陰陽道などさまざまに影響を受け、蛇信仰から山ノ神までもが混じり合って、渾然一体となって変化しながら伝承されてきた。
綿向神社の勧請縄にしたって、曳山が巨大化したのはずっとあとだったはずなのに、祭りで曳山が通るときは邪魔だからといって勧請縄を外すのも変な話だと思う。そういう緩さもあるようだ。
次の4枚は西明寺の西にある勧請縄。上下に2本の勧請縄が吊るされている。
村と山の境界にあたる場所に吊るされ、悪霊退散を目的とした「道切り」のために吊るされているのが見て取れる。集落の本家の人たちが中心となってつくられるのだとか。
外から嫁に来るとき、道切りの勧請縄をくぐって嫁入りするパターンと、くぐらずに嫁入りするパターンとがあって、それは集落によって違い、そんな違いがあるのもおもしろい。
1年で新しい縄に取り替えられるものが多いなかで、ここの勧請縄は、取り替えずに朽ちるにまかされ、翌年には新しい縄を上に重ねて吊るすそう。なので、2年目には二重になるし、うまくいけば、3年目には三重になる。古いものが切れずに三重までになると、その年は豊作になると言われ、逆に1年を待たずに切れると不作になると言い伝えられている。
小縄は十二神を表すことから12本下げられるけれども、今年は閏年なので13本下げられていてる。下の古い勧請縄は昨年のものなので小縄は12本。見ると、11本しか下げられていないけれども、これは、12本だったものが1本朽ち落ちたということ。
小縄の先にはシキミの枝が結ばれ、主縄の上にシキミの木を割ってつくられた小幣が立てられている。
勧請縄を吊るすることは「神事」と呼ばれるけれど、両側の木の根元にはシキミの木でつくった六角柱や七角柱には「阿闍如来」や「阿弥陀如来」などの仏の名前が書かれており、完全に神仏が混合している。
ところで、地の方に聞くと、猫はここの勧請縄をくぐらないのだとか。また、車がここをくぐって走り去るとき、それを諌めるように猫が大きな声で鳴くらしい。きっと、猫にはなにかがわかり、勧請縄を最初に吊るした人が感じたであろうなにかが、あるのだろう。
ああ、おもしろい。
次の5枚は、熊野神社の勧請縄。
全国から参詣者が群をなした熊野詣。しかし、熊野は遠い。遠隔地ということもあり、各地に熊野の神々が遷され、祀られ、日野にもそのようにして熊野神社がある。
そしてここにもまた、勧請縄がある。鬱蒼とした神社の境内、鳥居後方の杉の大木に吊るされていて、主縄の上に小さな御幣を12本立て、サカキを吊るすパターン。両方の木の根元にも12本ずつ整列して御幣が立てられている。
一度の日野遠征でこれだけ勧請縄を見れたことで大満足だけれども、今回はなんと、日本で唯一の勧請縄の写真集『勧請縄』の著者にして、近江の勧請縄をフィールドワークし続けている勧請縄の第一人者である西村泰郎さんにお会いすることができた。
訪れてみると、西村さんのご自宅でもまた由緒ある雛人形が飾られ、勧請縄のみならず、日野のまちの伝統を受け継ぎ、まちの歴史を発信し、まちづくりの一端を担っておられる方だということもわかった。
雛人形を拝見しながら、勧請縄や日野町の歴史などを直にサシでお話いただいたことは、このうえなく素敵な時間で、なんというか、来てよかったなとの思いが倍増して、もう。。。
写真集『勧請縄』にサインをいただき、ツーショットの写真にまで収まっていただき、いい時間を過ごしました。

https://photos.app.goo.gl/mtwktu1cFNDKRjuN6
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