『奇才ー江戸絵画の冒険者たち―』

ちくま学芸文庫が美術史家の辻惟雄『奇想の系譜』を文庫化したのが2004年。それまで高額で売られていたこの名著が安価で手に入るようになり、僕の記憶だと、辻さんはこの瞬間から、あれよあれよという間にスターになった。
この本に収められた絵画は、大胆な構図、原色の洪水、グロテスクでユーモラスなものばかりで、それまでの主流だったパッシブな日本画のイメージを根底から変え、狩野派などの主流に対してオルタナティブな傍系に甘んじていた岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳、白隠らが再評価されるきっかけとなった。日本画史の視座は、このとき、大胆に更新されたのだと思う。
伊藤若冲の再評価はこの文庫以前の90年代だったが(相国寺の若冲動植綵絵展に長蛇の列ができた)、彼を真っ先に再評価したのも辻さんだった。ここ数年は、歌川国芳と猫など、日本画史から“かわいい”がピックアップされている。
あべのハルカス美術館の特別展『奇才ー江戸絵画の冒険者たち―』に行ってきた。
この展覧会に辻さんの名前はないが、どっからどう見ても、これは辻さんが再発見した奇想の系譜の集大成だ。北斎はじめ尾形光琳や円山応挙の仕事にすら前衛や奇想を見出し、全国35人の“奇想”たちの作品を一堂にこれだけ集めた展覧会は、きっと今回が初めてだろう。圧巻のひとこと。
展示作品をすべて網羅した図録は、『奇想の系譜』を俯瞰できる図録としてマスト☆ すでにメルカリでたくさん売られているけれども。。

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