むかし、旅をしていたころ、紅海を臨むビーチ、シャルム・エル・シェイクが一等キレイなビーチだと信じていた。
砂漠のなかのリゾート地で、今はどうなっているのか知らないけれども、当時は、このビーチにヒルトンホテルが3つもあった。同じエジプトでも、首都のカイロにはナイルヒルトンがあるきりだから、それだけをとってみても、いかに絶大な人気を誇っていたかがわかる。25年ほどまえの僕は、砂漠の果実であるデーツを次々と口に投げ入れながら、このビーチで寝そべっていた。
ヘミングウェイの言葉だったと思うが、怠け者はヤシの実を夢見る、というのがある。
その伝でいけば、僕はまちがいなく、怠け者だということになる。
訪れた南の島、ビーチは、数知れない。おそらく、50はくだらないはずだ。
ジャマイカのドクターズ・ケープ・ビーチでは、レゲエを爆音で鳴らしながら、ガンジャを吸い倒して、ラリパッパになっていた記憶、つまり何の記憶もないのだけれども、信じられないようなキレイなおねーちゃんの姿と、エメラルドのビーチ、深い青の空、太陽が照りつけて色が飛んでしまった砂浜。それらが織りなす強烈なコントラストだけは覚えている。
メヒコはカンクンの沖に浮かぶ全長8kmの小さな島、イスラ・ムヘーレスでは、海のアズール、つまり海の青とはこういう色をいうのだということを思い知らされた。ブルーアイの瞳の色にも似た、吸い込まれるような海の青は、あのような青のことを言うのだ。夏、ジンベイザメが大集結することもあって、その時期には世界中のダイバーが訪れる。
挙げればキリがないが、こうして書いてみると、たいしたことが書けるわけではないことがわかる。
ヤシの実を夢見るモノは怠け者なのだから、書けるほどのものなくてあたりまえなのだ。
ダイビングやらなにやらをしないではないけれども、ビーチでは、波に洗われながら寝そべっているよりも心地いい過ごしかたを、僕は知らない。
石垣島を訪れたとき、真っ先に訪れたのは、川平湾のビーチだ。
今回は台風が近づいていたこともあって、いつ天候が変わるかわからないので、とにかく晴れているうちに、と、まず、川平に向かったのだった。(幸い、台風は進路を変え、しばしば強風が吹きつける以外の影響はなかった。晴れ男の面目躍如!)
僕はどこかへ行く際にガイドブックというものをほとんど見ない。空港から市街地にバスで出て、あたりをつけた八重山そば屋に飛び込み(あたりだった!)、石垣島に初めて来た、今来た、ここだけは絶対に見ておけ!って場所を教えてほしい、と、店員さんに声をかけると、ひと呼吸すら置く間もないほどの早さで、川平湾に行くといい、と、返ってきた。石垣島で一番の観光名所だとのことだ。
車を降りて、木漏れ日が涼しげな小道を抜ければ、美しいブルーを幾重にも重ねた海が目に飛び込んできて、思わず目を見張った。いくつもの小島に囲まれていて、さながら石垣の松島といった風情。
沖合に見える養殖場らしきところでは、黒真珠が養殖されているとか。波は穏やかだけど、潮流が激しく、泳ぐことはできない。
それにしても、この、ブルーだけを集めたタペストリーのような海。八重山そば屋の店員さんが即答するのもムリはない、完成された一幅の絵画のような、完璧なブルーの海。
ここでも、なにをしたということはない。早朝に大阪を出て、午前中のうちに川平のビーチで三角座りをしながら、ブルーだけを抜き出した色見本帳のような美しい海を見ているのだと思うと、不思議なおかしみが込み上げてくるばかりだ。
怠け者はヤシの実を夢見る。
川平湾
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